天童荒太「永遠の仔」

永遠の仔〈上〉

永遠の仔〈上〉

永遠の仔〈下〉

永遠の仔〈下〉

親との間にトラウマティックな体験をし、その結果精神病棟で療養を余儀なくされた小学生3人が、18年後に再会し次々と人生の階段を踏み外してゆく話。

某氏の予測通り3日で読み終えることが出来てしまったくらい、物語に推進力がある。語り口は極めて淡々とし、非常に乾燥した文体なのだが、それがかえって劇的な挿話に嘘くささを感じさせることなく、いい感じで読み込まされた。文章は決して上手なわけではなく、登場人物のイメージもステレオタイプと言えば言えてしまうのだが、それでも悪逆非道な母親にふつふつと憤りが感じられてしまうのはさすが。物語としては全く救われることはなく暗澹として終わるが、お先真っ暗な気分ではなく何となくカタルシスが感じられるのは、いつもにぎやかに争いごとが起こり、祝祭的といってしまうこともできるくらい立て続けに事件が起こる構成のせいか。また、とにかく細部にわたる研究の跡が見られ気持ちがよい。実際のところ介護保険施行後の現在では老人医療と介護はこのように悲惨な例はあまりないだろが、よく当時の現状を研究し、把握している。老人、精神医療ときたら後は「障害者」で医療と福祉とマイノリティーの問題系がだいたい完成するなと思ったら、やはり障害者にまつわるエピソードも出てきてなんとも圧倒された。現在で言う小規模多機能デイなども盛り込まれていて、物語の本筋に全く関係はなかったが満足。しかしだらだらと続く後書きは気持ちが悪い。作家が自作に自家中毒を起こしているのはなんともグロテスクな風景である。