田代裕彦「平井骸惚此中ニ有リ 其四」

おそらく江戸川乱歩の若い頃をモデルとする平井骸惚邸に下宿する書生を主人公に、大正12年を舞台に展開する極めて軽口の探偵小説。この四作目では関東大震災のただ中に起こる連続殺人事件がテーマ。

相変わらず軽くて走るように読み飛ばせるが、文章は意外と骨太で物語の組み立て方もしっかりしている。細部もよく気が利いていて、相変わらず楽しめる。しかし、この講談調の地の文と多少べらんめい口調の混じる登場人物の話し方は、この極めてラノベ的なアニメ調の表紙と挿絵がなければ、ほとんど物集高音の世界だよなあ。どうも出版社のつくりたいイメージと作者の世界とがずれている感じがしてならない。後書きを読む限り、かなり変な人みたいだし。でも面白かった。