伊坂幸太郎「死神の精度」

死神の精度

死神の精度

死神を稼業とする男が出会う6人の男女の生き方や死に方を、ちょっとづつ変化をつけた文体で描いた短編集。

きっと幾多のブログで絶賛されるであろう伊坂幸太郎氏の新作だが、極めて凡庸な出来だった。物語の核は、1週間という時間しか残されていない人間が、その事実を知らずにどのようにその時間を生きるかということを、基本的には軽く明るく描いてゆくものなのだが、途中でなんだかネタ切れというか息切れしてしまい、東野圭吾さんみたいな笑えない喜劇のような作品まで顔を出す。全編を通じての仕掛けはあると言うほどはないし、最後の話に至ってはほとんどオチをつけることをあきらめてしまっている。時間がなかったのだろうか。文章は相変わらず軽妙だが、シュールな比喩や思わせぶりな台詞は影を潜め、なんだかかっこよい文章。これは本当に好みの問題なのだが、ぼくは馬鹿馬鹿しいだけの文章は大好きなのだが、かっこよいだけの文章には全く興味がない。伊坂幸太郎氏ではない作家の作品として読んだとしたならば、非常に楽しかったと描いてしまいそうだが、期待が大きいだけにがっかりも大きい。読みながらでさえ自分の感想がフェアではないなあと感じた。表紙の写真や章の扉の写真は凝りすぎでちょっと趣味が悪い。近頃の本にしては珍しく本文の紙が極薄でびっくりした。