山田正紀「風水火那子の冒険」

風水火那子の冒険 (カッパ・ブックス)

風水火那子の冒険 (カッパ・ブックス)

ぜーんぜん新刊がぱっとしないので昔買った本を本棚から発掘。「阿弥陀」でも登場した新聞配達少女探偵風水火那子の登場する中編集。シーズン終了間際の海の家のシャワー室で倒れて死んでいた女性の身元をめぐる謎、7店のラーメン屋で構成されたラーメン村で起きた殺人の謎、バスに仕掛けられた爆弾と北国で死んでいた女性の謎、まるでたった今まで誰かが生活していたかのような無人の不審船の謎の計四編。

ラーメン店の話はちょっとつまらなかったが、他の三編は素晴らしい。ビーチの話は物語の構成自体は単純だが、妙に叙情的な雰囲気が物語の輪郭をほとんど幻想小説的なまでに崩している。バス爆弾の話も極めて山田的。話し出しからスピード感のある展開が続く一方で、話は突然全く関係ないと思われる殺人事件に飛び火し、気が付くと収まりよく物語が収束する。最後の不審船の話も秀逸で、視点を次々に転換しながら物語の緊張感を高め、あっという間に終わる。どの話も最後の一押しの推敲が見事に決まり、奥深さとざらざらした肌触りがあって気持ちがよい。久しぶりに読んだが最近の山田正紀の作品でも極めてレベルが高いほうだと思う。