森巣博「無境界家族」

無境界家族 (集英社文庫)

無境界家族 (集英社文庫)

博打打ち作家森巣博の家族自慢の一冊。

パートナーがテッサ・モーリス・スズキという、オーストラリア国立大学教授にして日本史研究者であることは知っていたのだが、この息子がスゴイ。まず高校をすっ飛ばして大学に入学し、大学も首席で卒業、その後ケンブリッジに進学、50人入って5人しか残れないというコースに見事生き残った後、20才にしてカリフォルニア大学バークレー校で教壇に立つという、恐ろしい人らしい。しかもその3年後には、自分のやっていることは世界で3人しかわかる人がいなくてつまらないと言う理由でヘッジファンド会社に引き抜かれ、今は大もうけしているとのこと。テッサ氏もいろいろなところで自由と歴史について力強い発言を行い、この人はただものではないなあと思っていたが、一家そろって凄いみたい。家族自慢の合間に相変わらず森巣流「日本人論」が展開されるのだが、これに関しては他の著作と変わるところは無い。しかし、このような「日本人論」を考えるきっかけになったのが自分の息子の問題であったという記述は腑に落ちた。また、テッサ氏があまりに忙しいため、子育てはほぼ全て森巣氏が行ったらしい。こういうところが、彼の文章に説得力を与えているのかなあとしみじみ思う。息子が大学の卒業式で表彰されたときのエピソードが描かれているのだが、彼はまずテッサ氏には「常なる知的刺激をわたしに与え続けてくれた」と最大限の謝辞を送り、満場の拍手にテッサ氏がこたえる。その後、スピーチの締めくくりとして森巣氏に贈った言葉がよい。「わたしの父親ヒロシが、ただそこに居てくれたことに感謝する。I thank my father Hiroshi for just being there.」