倉橋由美子「夢の浮橋」

夢の浮橋 (中公文庫 A 17)

夢の浮橋 (中公文庫 A 17)

夫婦交換swappingをして遊ぶ二組の夫婦のそれぞれの息子と娘が、その事実を知らずに恋愛感情をはぐくんでしまい、両方の夫婦が慌ててそれぞれ違う相手と結婚させるはなし。

非常に端正に構成されたポルノ小説。とても良い。上記の若者二人が実は異母兄弟である可能性が示唆されたり、章のタイトルは俳句の季題のような典雅な言葉が配されていたり、そもそもタイトルは源氏物語を思わせるものだったりと思わせぶりな要素が複雑に織り込まれてはいるのだが、良く読んでゆくと登場人物のほとんどが持つ欲望と欲情をどれだけエロく展開できるかということに向けて全てのギミックが配置され、結果としてかなりの盛り上がりを見せる。例えば奥泉がこのような描写をしても全然エロくならないのだけれど、ほとんど思わせぶりな言葉しか使わないのに倉橋はありありと絵画的に描写してみせる。一方で気になるところとしては、言葉遣いの不自然さ、その中に内蔵される構造化された「ジェンダー」への無批判さと、物語自体のジェンダーを打ち破りそうな勢いとのねじれの気持ち悪さがある。あとはswappingというのはこの頃アップダイクの影響を受けてホットトピックだったのかもしれないが、今読むと別にそれ自体にそんなにわくわくしない。新しいものを取り入れると経年劣化が早くて大変である。古典的とされる思考との対比も、その分だけ弱くなっている感がある。でもまあ、そういえば「源氏」ってロリコン的欲望にまみれたエロ小説だったなあと思いながら読んだ。