上野千鶴子「老いる準備 介護すること されること」

老いる準備―介護することされること

老いる準備―介護することされること

介護と自分が高齢になったときと言う問題意識のもとに様々な場所で書かれた論考を集めた一冊。

故あって上野千鶴子氏の著作を勉強中。色々と言及がなされる中であまり良いイメージを持っていなかったが、この本や他の著作を読む中でこんなにまともなことを行っている人なんだと確認。人びとの言うイメージは当てにならないことを痛感した。まずカバーをあけた左側にかかれている言葉が良い。「わたしの人生は、下り坂である。」この本では、あまり論理的な精密性、つまり知らない人にはたんなる言葉遊びではないかと思われる専門用語の羅列はおそらく意図的にさけられ、慣用語法でわかりやすい上野氏の考えが述べられている。その内容は一言でまとめられるものではないが、少なくともその縦軸には女性という集団が置かれている状況が、横軸には当事者を中心とした本当に必要なこととはなにかという問題が、織り込まれている。議論としては、地域というものの現代的な概念的アップデート、家庭内労働力の介護保険による社会化と評価、自分を中心にした価値観の提供(はっきりとこのように書かれている訳ではないが、そのように読める)、ボランティアの社会的なマイナス効果など、説得力があり心強い提案が多い。私企業に対するなにか不信感のようなものはあまり賛成できないが、当事者が、当事者の幸せを考えることで、社会(つまり自分もその一員である人間的なつながり)がもっと良いものになるはずだ、すなわち私たちはもっと無理なく、生きやすくなっていいはずだという主張と、その根拠の提示のあり方は、非常に説得力があり勇気づけられる。上野千鶴子という人は劇的な表現が巧く、それ故にそのような側面が注目されることが多い学者だと思うが、この本や他の著作を読む限りでは極めて論理的で、異常なまでに議論の正確さ、厳密さを確保する人だと感じた。それが故に、自分の議論が至らない点、また実際の社会に対する影響の不十分さに大しても正直であり、あららという感じもするのであるが、それがまた力強くもある。森巣博も言っていたが、楽しいことをやっていれば間違いはない、ということを、実はこの人も実践している。これはとてもすごい。