倉橋由美子「聖少女」

聖少女 (新潮文庫)

聖少女 (新潮文庫)

事故で記憶をなくした未紀のノートには、「パパ」と呼ばれる男性に向けた愛情の移り変わりが描かれ、それを読んだ未紀の知り合いであるKは、未紀に対するいびつな愛情を募らせるとともに姉とされる女性Lを恋人とした日々を思い出す。

最近新しい物ばかりなので、たまには古典を。これは著者が「最後の少女小説」と読んでいるとおり、非常に饒舌で演出過多な、例えば竹宮恵子の70年代の「少女漫画」を思わせるような小説。登場人物が非常に内省的であり、自分自身に問いと答えを繰り返すような話し方をするところは、若書きの大江健三郎にも似た雰囲気があり、昭和40年という時代を感じさせる。主たるテーマは近親相姦としての愛のあり方だが、どうも今となってはそんなに肩に力を入れて語らなくても、と思うところが多い。しかし、最近の倉橋氏は非常に滑らかでゆったりとした文章で生々しい事を描いている印象があるが、まだこの作品のころはえらくごつごつしているというか、乱暴な感じがしてそれはそれで面白い。安部公房の初期といい、大江健三郎といい、表現をする人が一生懸命背伸びをしているような感じがあり、ちょっと偉そうな感じがするし面白さと面白くなさの境界線上を綱渡りしているような感覚がある。