山田正紀「謀殺の弾丸特急」

国名は架空の物が使われているが、カンボジアの一部分としか思われない国を舞台として、不注意なカメラマンの起こした不始末によってその国の軍隊から気合いの入った攻撃を受けることになった、SLを使った日本人旅行ツアーの顛末。

後書きで作者は、「この「謀殺の弾丸特急」を執筆したとき、私の頭の中にあったのは、ハリウッド製の小味なB級映画のような小説を書きたい、という思いだった」と述べている。その思いの通り、とてもB級な小説だった。これは作者もまた述べているとおり、決して手を抜かれて書かれた物というわけではなく、楽しさのツボを出来るだけおさえて、エンターテイメントであることを一番大切にして書かれたものという事である。でもまあ、作者はとても気に入った作品だと書いているが、山田正紀の作品としてはそれほど特筆するところはない。思うに、山田正紀の良さは、なにか鬱屈された、ひねくれた思いのようなものが作品にあふれ、どんな快活なストーリーも最終的にはおかしな雰囲気を漂わせてしまうところだと思うが、この作品にはあまりそのようなひねりが無くてつまらない。一番面白かったのはやはり後書きで、なぜかある時期日本でSF作家が冷遇されて、「ほとんど焚書というべき」扱いをうけたなどとくだくだ書いているところだった。解説は有栖川有栖氏で、山田正紀に対する尊敬と愛情が溢れた内容で心地よいが、自分の著書を宣伝しているのは興醒め。