松下文洋「道路の経済学」

道路の経済学 (講談社現代新書)

道路の経済学 (講談社現代新書)

講談社現代新書の新刊。著者は法政大学法学部の講師でもある民間のおそらくコンサルの代表。

本書の内容をまとめると、基本的には日本の高速道路建設に投入される資金の理不尽な巨額さを批判しながら、新設道路計画の決定の手法を自らも一員となって開発したプログラムにのっとり解説し、効率的な税金の使い方と還元のされ方を説いている。これがなかなか力強い。まず著者はいう。「道路族」の「必要な道路は採算性に関係なくつくるべきだ」という主張自体は正論であり、マスコミの批判は当たらない。しかし、問題は「国民・市民にとって本当に必要なのか」というところである、と。その後に、アクアラインを例にとって、これが本当に必要な道路であったのか検証がなされるのだが、これがすさまじい。まず、高額な通行量のため交通量は増えず、期待された京葉道路などの交通量と渋滞は緩和されない。一方で富裕層は千葉県で買い物をしなくなったため、木更津駅前のダイエー、そごう、西友は撤退、大量の住宅供給により木更津の地下の下落率は全国一、商業地区の地下はピークの92年の14分の一だという。つまり、高速道路は周辺住民になにももたらしていない。このような実例分析の後、道路の修繕費を含めた経済性の評価、環境への影響、持続可能な成長とリンクした都市交通政策への提言がなされ、最後に民営化の方法について批判と提言がなされる。本自体はとても説得力があって面白いのだが、この本のなかで次々と述べられる日本の道路行政とその決定の方法はちっとも面白くない。むしろ、行政が使用しているとこの本で述べられている通行料金と交通量の関係の求め方は、こんな幼稚な方法を上級官庁の優秀な官僚たちが使用しているのかと、暗澹とした気分にさせられる。行政の「お上の意識」と、行政サービス受容者の「よきにはからえ」の図式が、このような状況を作り出したのであり、これがこのまま続けば「日本株式会社」は倒産はしないだろうが極めて低い水準の満足しか実現出来なくなるに違いない。しかし、この会社からは退職が極めて難しいことが悲劇である。高速道路建設に関わる談合もこの本の中で厳しく批判されていたが、この事実を行政が認めていたと指摘している点はさすが。談合は行政も荷担して行われるものだし、行政サイドの制度の不備が談合を誘発している事例もあるはず(単年度発注とか、議会の都合による内示の遅れとか)。連休前に公募を出して締め切りが連休明けなどということを平気でやる行政の、サービス受容者ではなく民間事業者に対する態度の悪さも、もっと指摘されてしかるべきである。