石持浅海「扉は閉ざされたまま」

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)

成城のお屋敷を改装したペンションで、泊まりで大学のサークル仲間での同窓会が開かれる。午後に集まり、一休みしてから夕食というところで、一人だけ部屋から出てこない。外からは開けることの出来ない状況の中、出てこない男とそれを引き起こした状況について、二人の人物の間で極めて緊迫したやりとりがなされる話。

<著者の言葉>によれば、「鍵のかかった扉を、斧でたたき壊す」という「本格ミステリ」の世界では良くある出来事が起こらない話を書きたかったとのことで、確かに扉は壊されない(扉が高価であるという理由で)が、別にだからといって特段面白いわけではない。むしろ、このような状況に陥った理由を一人が推理し一人が追いつめられていくという、「本格ミステリ」ではこれまたお約束の出来事を、その両方が常に一緒にいる状況で、しかも極めて短時間に起きる出来事を書いているという点が面白い。でも、石持浅海氏の作品としては、「月の扉」や「アイルランドの薔薇」ほどの緊迫感や異常な世界の設定が感じられず、普通に面白いという程度。「水の迷宮」ほどのがっかり感はなかったが、それでも残念。この事態を引き起こした原因の設定はちょっと特殊でこの人らしいなと思ったが、「月の扉」の新興宗教の教祖的な人物が月に飛翔するためにハイジャックを敢行するといった、やけくそに力強くも読んでいるとすっかりその世界に取り込まれてしまうような雰囲気は、今回は無い。でもまあ、扉が駄目ならなぜ枠を壊さないのかといった疑問が感じられてしまうように、設定自体が特殊なところはそれなりに面白かった。西澤保彦氏の「麦酒の家」のような感じがちょっとしました。