山口雅也「チャット隠れ鬼」

チャット隠れ鬼

チャット隠れ鬼

未成年を対象としたネット犯罪の監視を押しつけられた中学校の教師が体験してしまう、チャットを舞台とした倒錯劇と殺人事件の話。

この山口雅也という作家は、パンキッシュであると同時に極めて知的というか、饒舌で知識にあふれた作品をここ15年ぐらいのあいだに着実に書かれている人である。一番最初の作品「生きる屍の死」には度肝を抜かれたが、その後の「キッド・ピストルズ」のシリーズは何度読んでも良かったなあ。「日本殺人事件」や「垂里冴子のお見合いと推理」もとても素晴らしかった。しかし、ちょっとこの作品は微妙で、なにか物足りない。そもそもいまさらネットとチャットの犯罪かという感じもするが、主人公の教師のネットに対する知識の少なさは非常識なレベルとも感じられ、違和感がある。物語の構成と文章にも、いつもの諧謔と饒舌が感じられなく、のりが悪い。行われる犯罪も、人を殺さないとミステリーにならないから殺したかのような、なにか素直に理解できない物であり、終わり方も投げやり。山口雅也氏らしくないというか、ほんとうに別人が書いているかのようで、非常に驚いた。しかし、このタイトルでこの表紙だと、「リアル鬼ごっこ」などを書いている物凄い作家と間違われてしまうのではないかと心配になった。