ロイス・マクマスター・ビジョルド「名誉のかけら」

名誉のかけら (創元SF文庫)

名誉のかけら (創元SF文庫)

アメリカでは相当な冊数がでているヴォルコシガンシリーズの一つ。シリーズの主人公マイルズの両親が出会う過程を描いたサブストーリー。

このヴォルコシガンシリーズというのは、基本的には「スペースオペラ」と呼ばれる(と思う)こてこてのSFで、バラヤーという軍国主義的皇帝国家のお偉いさんの息子(重度の身体障害を持つ)がなんの因果か宇宙艦隊を率いる事になるという、一種のアンチヒーロー的な構成を持つ物語で、ジェンダーとかマイノリティースタディー的な視点を持つことも売りとされている。もう7〜8年ほど前にSFに凝っていた時期があり、このシリーズも何作品か読んだことがあったのだが、久しぶりに知人から貸していただいたので読み、なかなか感慨深い。この作者は極めてストーリー展開が上手く、読み手を飽きさせず最後まで連れて行ってくれるので、楽しく読み終わることが出来たのだが、冷静に考えてみると全編軍隊/戦争の物語で、しかも主題はタイトルにも現れているように「名誉」であり、この「名誉」とはほぼ戦争状態での人間の行動を律する論理として提示される。上記のようにこの作者は極めてバランスのとれた世界作りをすることで知られているが、しかしやっぱり、どう読んでもこの話は戦争状態での人殺しを美化していると捉えられても仕方がない。アメリカの本屋でこのシリーズが何冊も並んでいるのをみてびっくりしたことがあるが、ジャンルとしてSF・ファンタジーというのは、アメリカでは非常に人気がある。そしてこの両方のジャンルは、僕の感覚からいうと極めて侵略戦争的な主題を扱うことが多い(ディックとかは別格ですけど)。スター・ウォーズを物心付いてから見直してみると、あまりに直裁に軍隊映画であることにびっくりしたことがあるが、やはりアメリカのポップカルチャーのなかで、このような軍国主義的なる物に対する垣根が低く、「名誉」などと言う概念が受け入れやすい物として流布している(社会心理的学的な調査の裏付けがあるわけではない印象だが)のは、興味深い。一方で、日本ではなぜか密室で人が死んでいて、その状況を作り出すためにちくちく犯人が努力する、という図式を典型(これが主たる傾向である、という訳ではないが)とする「本格ミステリ」なる物が、一定のマーケットを確保しているということ、かつ、日本のSFはむしろ「アキラ」的な、ディスユートピア的な世界を書いた物に面白い物が多い、という点は面白い(椎名誠「アド・バード」、恩田陸「ロミオとロミオは永遠に」等を念頭に書いています)。何を書いているのかよくわからなくなったので、今日はこれでおしまい。