鳥飼否宇「痙攣的 モンド氏の逆説」

痙攣的

痙攣的

革新的ロックバンドのライブコンサートで起こったプロデューサの殺人とメンバーの消失、現代美術のイベントで起こった舞踏家の死、小島での現代アートパフォーマンス中に起きた事故と殺人、イカを用いた他者との五感交換装置の実験中に起こった殺人など、奇矯でとりとめが無く極めて散文的な殺人事件と、ご丁寧にも全てをイカの世間話に収束させた一編を収録した短編集。

奄美大島在住のおそらくとても変わった人だと思われる作家による最新の推理小説。最初の一編は明らかに読んだことがあるのだが、他の4編は読んだ記憶が無い。「ジャーロ」なんて読んだことはないので、どこか他の短編集に収録されていたのか。それはさておき、相変わらずの変態っぷりである。ある朝起きたら自分がゴキブリになっていて、虫の世界の探偵として虫の生態を知っていない限り理屈がわからない事件を解決してゆく「昆虫探偵ーシロコパκ氏の華麗なる推理」の頃からこの作家は物凄いと感じていたが、相変わらずのパワーで楽しめた。ひねくれた文章、妙にマニアックな蘊蓄(突然舞踏の歴史が語られたり)など、読み物としての楽しさもさることながら、推理小説のお約束の構成を丁寧に脱構築し、しかもそれを「ポストモダン」的に作者にもわからない地平に放り投げて悦に入るのではなく、あくまでも構築の意志(奥泉の云いではないが)が感じられ、とても好感が持てる。推理小説としては、どの記述が物語の中で「事実」として認定されるレベルかも判然としなくなるため、当然犯人なんて(ある意味)誰にもわからない。でも、それでいいじゃないか。むしろ、これこそこの種の小説を読む悦びなんです。大学に入学した頃、同級生が「読んでいるのはいわゆる「新本格」です」と云っているのを聞いて、なんだその分野はとびっくりした事があるのが、僕がそれまで読んでいたのは中井英夫夢野久作小栗虫太郎、渋澤達彦、久間十義であり、その後ちょこちょこと読んだいわゆる「新本格」は、ずいぶんおとなしく感じたものです。型にはまったものってあんまり面白くないし、その型の成立を(読者に対し)前提として書かれた小説はもっと面白くない。だから法月倫太郎は面白いし、その意味で鳥飼否宇は好きな作家です。でも、あいかわらず表現が過激で、ちょっと引く。