笠井潔「ヴァンパイヤー戦争(ウォーズ)11 地球霊ガイ・ムーの聖婚」

ヴァンパイヤー戦争の講談社文庫での再版版の完結編。パリでテロ活動をしたり、アフリカ奥地で探検をしたりといろいろな活動を行った主人公が、最後は月面で大冒険。

長期にわたって書かれた冒険ものの特徴かとは思うが、どんな活劇が繰り広げられようとも物語の流れがとても落ち着いてしまい、心安らかに読むことが出来る。主人公はいかなる危機にあっても決して死ぬことはなく、最初はヒロイン的であった少女もだんだんと力をつけ、この巻に至っては地球でもっとも強力な人間となるので、「魔人スペシネフ」との闘いもとっても安心。主人公の危機が、危機を乗り越えた後の記憶障害のある状態の主人公が思い出すという形式で語られるところまでくると、もう作者も楽しんでいるなあという感じ。物語を完結させる必要の中で、説明的な会話文が多くなる事とも相まり、淡々と進み淡々と終わる。ストーリー自体は「ガイ・ムー」「ヴァーオゥ」「メランジ」「ネヴセシブ」「ゲルギア」「ガゴール」などのアブなさ満載の単語が頻出する一方で、相変わらず主要な登場人物はインテリ左翼的な思弁論的台詞を延々と語り、ミスマッチが気持ちよい。でもまあ、とっても楽しめました。どんなにアヤしい事を書こうが、文章の骨格がしっかりしてれば面白いんだなあと感心させられた。その意味で、やはりこの作品は「ラノベ」を先取りしていたというのは違うんではないかなあ。後書きで作者が、表紙のイラストは「ラノベ」を意識したと書いているが、このあたりの感覚のずれも何となく面白い。おそらくそうではないかなと思ってはいたが、「ラノベ」とはちょっとコードが違う絵だなあとも思っていたんですよね。なんだか古くさいし。このイラストレータ笠井潔が選んだのかどうかは知らないが、このオヤジっぽさがまた笠井潔的で素敵。もうちょっと表紙がいい感じだったら、手元に置いておこうという気にもなったこともたしかなんですけどね。