太田忠司「黄金蝶ひとり」

黄金蝶ひとり (ミステリーランド)

黄金蝶ひとり (ミステリーランド)

ミステリーランド」シリーズ。両親がキプロスに旅行に行ってしまった間、祖父の家に預けられた少年が体験する冒険活劇。

さすが太田忠司というか、少年向け冒険小説のツボを見事に押さえた快作。祖父は一歩間違えば危ない人って感じだったり、帽子の色でしか識別されない三人組が出てきたり、ミステリーかと思いきや最終的にはトンデモ本的なSFっぽい展開が待ち受けていたりと、むしろシュールにも感じられる危うさ満載なのだが、読み終えた後に感じる心地よさと、なにかノスタルジックな感覚はとても素敵。ずっと昔に終わってしまった夏休みを懐かしむような、そんな感じがするのです。このシリーズは何作か読んだが、「子ども向け」ってのは案外難しそうである。シンプルなだけにごまかしがきかず、また大胆さ、奇抜さ、そして何よりも物語の雰囲気が求められるみたいで、意外と有名どころの作家が苦戦している感じがする。自分が「子どもの」時を考えてみると、そういえばひねくれたのを読んでいたなあ。おそらく子ども向けにリバイズされていたと思うが、ヴァン・ダイン、クイーン、カーなどの推理小説をシリーズで読んでいた記憶がある。確か挿絵は真鍋博画伯だったような。この本の挿絵は網中いずるという人だが、これまた素晴らしい。抽象画的なタッチだがデッサンがとてもシャープ。目次の左側にしこまれた暗号が全然解けないんだよねー。