森絵都「いつかパラソルの下で」

いつかパラソルの下で

いつかパラソルの下で

異常なまでに厳格な父親から逃れるため、二十歳で家を飛び出して職住を転々として5年の主人公(女性)が、父の死をきっかけにして明らかになった父の浮気とその結果の母親の錯乱を何とかしようとするのだけれど途中でやる気がなくなり、と思ったら仕事を首になり同居人にも振られてしまう。そんなとき、やはり父親が嫌で家を出てふらふらしている兄と、家に残ってしまった妹が父親の過去をいろいろと調べ始め、それに巻き込まれる格好で佐渡まで父親の記憶探しの旅に出かける羽目になる。

親とのしがらみによる生きていることのもやもやとか、セックスの良さとか悪さとかコンプレックスとか、気楽な生き方の気楽でなさとか、生きていることの居心地の悪さにはそんなに理由は無いこととか、自分の深い悩みは愛する人でも理解してくれないがそれはそれで良いような気がするとか、佐渡には愛は無かったが「愛」というひねくれた中学生がいたこととか、飲み過ぎた朝の二日酔いは二人で苦しむと結構楽しいとか、いつも左手に冷たいビールを持つと幸せだとかが書いてあった。主人公が佐渡で飲み過ぎ、二日酔いなのに「愛」に勧められて行った「イカイカ祭り」でイカを食べ過ぎ、港で嘔吐した直後に海を見ると太陽には虹のような暈がかかり、その美しさに打たれた主人公は「生きるということの尻尾を掴んだような気分」になってしまったりする。暗くてよくある話でみんなとてもいい加減でだらしがないのだけれど、とても明くるくてしずかな喜びに満たされている、そんな話でした。最後まで主人公とその彼氏がしょうもなくもつれてゆくのもとても良い。この作者はもともと児童文学の人らしく、言葉が穏やかに優しく選ばれ、とても瑞々しい。こういう本に出会うため、無駄ともいえる読書に日々時間を費やしていたんだと思った。