伊坂幸太郎「オーデュボンの祈り」

オーデュボンの祈り (新潮ミステリー倶楽部)

オーデュボンの祈り (新潮ミステリー倶楽部)

コンビニ強盗に失敗した青年が同級生だった凶悪警官から逃れてたどり着いた島には、未来を知ることができ、しゃべりもするカカシの「優午」がいたのだが、青年がたどり着いた直後にばらばらに解体されてしまう。なぜ未来を知ることが出来たのにこの事態をカカシは回避しようとしなかったのか、という疑問を中心にいくつもの物語が結びつけられてゆくはなし。

ちょっと新刊に元気がないので、以前読んだ小説を再読。この小説についてはあらすじだけは知っていたのだが、上記の通り常軌を逸したあらすじなので読んでいなくて、その後「ラッシュライフ」を読んであまりの楽しさに驚愕、あわてて読んだ覚えがある。最初にこの作品を読んだときには、とにかく全体を緻密に組み上げているのに感動した。小さな出来事が巧みに配置され、そのそれぞれが有機的につながりあう見事な構成なのだが、しかしシナリオを読んでいるようなつまらなさは無く、物語がとても元気。「少年マンガ的」とも誰かが言ってはいたけど、でもその大円団に向かう盛り上げ方が気持ちがよい。シュールなあらすじの割には、主人公がこの島に足りないものは何かと聞かれ「圧倒的にリアリティが足りない」と思ってしまうなど、物語自体は極めて正気で、シュールな展開をするわけではない。文章もリズミカルで心地よく、言葉遣いも丁寧。おばあちゃんの警句が時折挟まれるのだが、なんとなく作者が体験したのではないかと思われるエピソードもあってとても素敵。この「祈り」と「ラッシュライフ」と「陽気なギャングが地球を回す」を読んでいたとき、間違いなく伊坂幸太郎は僕のベストに好きな作家だった。あのころは直前に舞城がフィーバーし、石持浅海もデビューして、小説が本当に楽しい時期でした。最近はちょっと元気がない気がするが、6月に新刊が出るとのことでとても期待してます。