石田衣良「エンジェル」

エンジェル (集英社文庫)

エンジェル (集英社文庫)

若くして殺されてしまった主人公が不条理にも幽霊になってしまい、殺された理由を探すためいろいろと努力するはなし。

これまた微妙だなあ。おそらく物語の全体の構造としては、何人かの個人の勝手な思惑がだんだんと明らかになるにつれ、人間のあり方の多義的な側面があらわになるとともに、憎しみとか悲しみが脱構築されて、カタルシスとともにある種のハッピーエンドが浮かび上がるというところなのだが、作者がそれを意図していない気がしてならない。まず、登場人物の利己的なあり方が極めて不条理で、描写としてはそれぞれざ人間らしく描かれるのだが、よく考えてみてみると全く人間らしくない。物語も何となくの収まりを見せ、主人公も「納得」してしまうのだが、僕なら納得しないなあ。出来る限りの嫌がらせをして呪い殺すぐらいはしたくなってもおかしくないんじゃないかなあ。この作家は構成も文章も「きれい」なのだが、なにかぎこちない、いびつな感覚を一方で見せたくてたまらないような気がする。暴力描写は抜群に上手いしね。

と、こんな感じで読んでたため、巻末(集英社文庫)の解説を読んでまたまた脱力してしまった。「感動の芯をガツンとつかんで爽やか」な読後感は無かったなあ。「解説」って書く方も難しいとは思うのだけど、ほんとに無くても良いとおもうのばっかりだなあ。