目取間俊「群蝶の木」

群蝶の木

群蝶の木

集落を挙げてのお祭り(竹富島が舞台か?)の時を舞台に、一人の老婆の戦中・戦後の人生と、主人公である若者の時間が混ざり合う不思議な表題作と、他三編。

全四編のうち2編は、主人公である教師が、他人の悪意と現実の不条理さに現実と悪夢の境を切り刻んでゆく話で、この人の小説にしては珍しく後味が悪い。それとは対照的に「帰郷」と題された作品は、風葬を巡る人々のすれ違いと切り結びが、かなりユーモラスに書かれていて楽しめた。表題作は、これが一番面白かったが、やはりこの人らしく現在に浮かび漂う戦争の記憶を、視点をゆらゆらと移動させながら強く強く語りあげてゆく。政治的には非常に微妙な空隙を丁寧に拾い上げ(空隙を拾い上げるとは妙な表現だが)、極めて透明度の高い文章で物語を語らしめるこの人の作風は、本当にすがすがしい。