小路幸也「Q.O.L.」

Q.O.L.

Q.O.L.

僕らの業界だとQ.O.Lはうさんくさいファンシーな環境を意味する。でもこの小説では違う。幼少期にトラウマチックな経験を持つ三人の若者が、自分の人生に整合をつけるため、痛々しい戦いに乗り出すはなし。

正直前半三分の一を読んだときには、またトラウマ話かとげんなりした。感覚としては、不必要に痛々しい伊坂幸太郎という感じ。でも違った。この作者はおかしい。本当に、生きていく瞬間にぽっかり空いてしまった暗闇を見てしまった経験が無いとこんな事はかけない。もし彼が想像で書いているのだとすると、相当な悪人だよ。でも、ちょっと違う気がしてならない。基本的には、自分の一番親しい人を殺そうと決意した二人と、殺す物理的なきっかけを作った一人の若者の話。しかしその構図が一つの事件をきっかけに回転してゆき、横滑りしてゆく。語られるエピソードはどうしようもなく暗く救いが無い。しかし、この作者はそのエピソードを、決して幸せとは言い切れない物語に飲み込ませ、訳がわからないままにぶちこわし、正気に返る間も与えずキャンセルさせてしまう。これにはまいった。結局のところ、結構みんな生きていく中で笑えない冗談みたいな瞬間を生きざるを得ないと、ぼくは思っている。でもそれがデフォルトだし、笑えない冗談ほど面白いって思ってないと、やってけない。それを実感せずにある種の雰囲気として書く作家はぼくは大嫌いだし、実感してしまっている作家には、とても共感する。中上健二、ヤン・ソギル玄月井上ひさし、松尾清貴のような作家は、おそらく暗闇が見えてしまっているに違いないと思う。この作家もおそらくそうなのではないか。とにかくびっくりした。