中西正司・上野千鶴子「当事者主権」

当事者主権 (岩波新書 新赤版 (860))

当事者主権 (岩波新書 新赤版 (860))

おそらく本全体の主張としては「当事者主義」ということを掲げたかったのだと思うが、基本的にはいままでどのようにして「障害者」と呼ばれる人々が、自分たちの自立した生活を獲得するために行動し、行政を動かし、政治に介入してきたのか、細かに、しかも生き生きと描写したものとなっている。

序章や1章では、当事者主義の定義や歴史的に「当事者主義」が達成してきたことが語られるが、なにか教条的で現実的でない主張に感じた。しかし、その後の章で語られる「障害者」による「当事者運動」は、圧倒的で、感動的ですらあった。旧厚生省とどのような折衝を行い、そのためにどのような組織をつくり、そしてどのような主張をしてきたか、ここには「何かがこうであったら」とつぶやくだけの人ではなく、怒りをこめて社会を変えてゆこうとする人の姿が、きわめて冷静に描かれている。「当事者である障害者と親の利害は異なる」、「デイサービスに行くのが社会参加ではない」など、示唆に富む指摘も多い。しかし一つの疑問は、上野は一体どの部分を担当したのかと言うことだ。共著という体裁のためどちらがどの部分を担当したという記述は無いが、もしかしたらここは上野の主張かと思う箇所があり、そういう箇所に限って話が抽象的で「べき論」が多い。そう思わせてしまうような構成自体に、多少の問題がある気がした。しかし、やはり全体としてはなるほどと膝を打つ主張が多く、とても面白かった。また、最後まで財源について具体的に議論がされずおかしいなと思って読んでいたのだが、後書きに中西が「財源を確保するためには、市民の合意を得ることが不可欠」と思いこの本を執筆したと書いていて納得した。どこに存在するのか見当もつかない「国民的議論」などよりも、このような主張の方法はよほど説得力がある。また、介護保険と支援費制度の比較も具体的になされていてわかりやすい。