山田正紀「仮面(ペルソナ)」

仮面(ペルソナ) (幻冬舎文庫)

仮面(ペルソナ) (幻冬舎文庫)

まじめな本を読んだら疲れたので山田正紀を。

ある閉店したクラブで開かれたパーティーで起こった殺人事件とその後日談を、時間的構成と叙述的構成をバラバラにして再構成した話。不思議なことに、これも事実とはなにか、と言うことが隠れた主題となっている。再読のため叙述的構成に関わる仕掛けがわかってしまい、その分楽しみは減退してしまったのだが、それでも充分楽しめるところが山田正紀の凄いところである。山田正紀を読んでいてつくづく思うのだが、いわゆるミステリー(広義の)を読む理由は、少なくとも自分にとっては謎解きを考えたり作者と知恵比べをするようなことでは全くない。小栗虫太郎中井英夫夢野久作、竹本健二など、僕の好きなミステリー作家が物語る世界は、なにか現実というものが様々な形を取りうるのだ、と言うことを強く主張しているように感じ、そこが好きなのだろうと思う。もう少し考えると、ミステリーという形式が本質的に描かれる世界(事件がおこって殺されて…)とある一つの恣意的な解釈の世界(探偵はなんであんなに確信を持てるのか?)という入れ子構造を持つため、世界(事実)の多元性を強く主張していると感じる。この文脈で、奥泉光や久間十義の描く世界も、ある種ミステリー的な世界観を持つ。言ってみれば水村美苗の「私小説的」世界も、同じような構造である。文中に中井英夫の「虚無への供物」への言及があったので、こんなことを考えた。