南条竹則「寿宴」

寿宴

寿宴

ジュンク堂に売っている南条先生の小説はこれで最後。後は図書館で読むしかないか。哀しいなあ。

さて、これは南条先生の作品のなかでも、夏目漱石を意識した日常雑記風中華料理小説とでもいうもので、「満漢全席」の後日談の形をとっている。内容については、みんなで中国に行って飯を食い、これがうまかったあれがまずかったなどと言い合うだけのもので実に無意味で他愛がない。しかし、なぜだか文章の端々に顔を出す、近代文学や古典や中華料理などの蘊蓄が、とても深みのある世界を形作り、読み終わったときには満腹感と幸福感が楽しめた。だって、主人公の恩師が「甘木先生」ですよ。あと、印象に残ったのがこんな一節。「賽は投げられた。宴はやらねばならぬ。カルタゴはうたねばならぬ。」この無意味さが美しい。