獅子宮敏彦「砂楼に登りし者たち」

砂楼に登りし者たち (ミステリ・フロンティア)

砂楼に登りし者たち (ミステリ・フロンティア)

室町幕府崩壊前夜に、牛の背に乗り諸国を旅する放浪の医師が、遭遇する奇妙な事件の数々を解き明かしてゆく話。

精緻な文章、おそらくしっかりとした学識に裏付けられた言葉の選択、構成の妙、どれをとっても初の長編とは思えない力量を見せつけられ、とても楽しかった。戦国武将の成り上がり前夜の姿を描きながら展開する事件は、どれも玄妙の雰囲気が漂い、極めて散文的な様相を呈するのだが、玄妙の極みとも言うべき、達磨のような高齢の医師が極めて即物的に解きほぐしてゆく。でもやはり一番面白かったのが、基本的には極めて理性的で時代考証と実証的な語り口で物語は進んでゆくのに、収録四編中の第三話において、突然山田風太郎大先生のようなどうしようもなくくだらない忍術話になるところである。もう最高。