南条竹則「セレス」

近未来、中国古代都市と、さらに神仙の世界を再現した仮想空間上で起こった色恋沙汰と刃傷沙汰の顛末。

あの南条先生が、近未来を舞台にしたSFを書いていたのでびっくりした。しかし内容は、コンピューターネットワーク上の仮想の神仙の世界で、神通力を使ったりこの世のものとは思えぬ異常な体験をしたりという感じで、本質的には今まで読んできた浮世離れした世界とあまり変わらない。けれども、やっぱり現実的な世界に描写の礎をおいているせいか、いつもの幻想的で陶酔感のある文章がちょっとおとなしく、読んでいて多少肩のこる感じがした。しかし、主人公が相変わらずどうでもよいことにのめり込み破滅してく様は、やはりいつもの調子で面白かった。何を読んでも面白い人とはいるもので、この人の本は本当に僕にはありがたい。まだ読んでない本があるのはうれしいが、この調子だとすぐに全部読んでしまいそうで残念である。