ロバート・ホワイティング「東京アンダーワールド」

東京アンダーワールド (角川文庫)

東京アンダーワールド (角川文庫)

ロバート・ホワイティング「東京アンダーワールド

敗戦直後からバブル崩壊直後まで、日本の中心である種の喜劇的な行いをし続けた実在のアメリカ人(後に日本国籍を所得)を狂言回しとして、日本の表面下の力学の移り変わりを描いたドキュメンタリー的記述。

いやー、面白かった。これもまた、勧められて読んだ本であり、つまり自分では決して読もうと思わない類の本なのだが、ここまで楽しめるとは。この楽しさは分析しなければ。

まず一番感銘を受けたのが著者の立ち位置である。これはありきたりの「日本」文化論ではなく、アメリカ人が日本の文脈に身を投じつつ、日本とアメリカの共犯関係を常に意識しながら日本の闇社会を分析したものである。著者の立場は日本とアメリカの境界線という、どこでもない場所にあり、そのためどちらを特殊視するわけでも無く、どちらをもおもしろおかしく、悲喜劇的に描き出す。描写の細部については疑問も多々あるが、この作者の立場が語られている多くの物語の信憑性を非常に高めている。次に、やはりそれでも、何となく知ってはいるもののあまりまじめに考えようとしなかった事柄について、「他者」の視点から鋭い批判と考察がなされ、なんだか正気に戻らされたような気がした。やはり全てを「民族性」や「伝統」で片づけるわけにはいかず、定型化できることとできないことにより分けた上でいちいち判断をしていかないと、文字通り判断停止状態に陥ると言うことを再確認させられた。また、ここで描かれていることは、決して「アンダーワールド」ではなく日常で接していることである、という感覚もまた憂鬱であった。「談合」や「建設業界の閉鎖性」など、おそらく多くの普通の勤め人が経験していることである。それが著者が言うような理由でおかしいとは思わず、いろいろ理由があってそうなってしまっているとも思うのであるが、それでもやはりおかしいものはおかしい。とっても面白かったのだが、現実逃避と気分転換のはずの読書で思わず現実に向き合ってしまい、ちょっと暗い気分になった。明日からは当分ミステリーを読むことにします。

でもやっぱりこの「訳者あとがき」は変だな。日本語の文献をいっぱい読んだから偉い?この手の文章を書くのならば当たり前ではないだろうか。むしろ、某北米系有名新聞の日本特派員の方々が、日本語もろくに解せずいい加減な記事を書きまくっているのが異常なのだ。山谷に住み込みで働いて、文化人類学的な研究として本を出版したイギリス人でアメリカの大学の教授だっているのだし。