村山由佳「星々の舟」

星々の舟 Voyage Through Stars

星々の舟 Voyage Through Stars

3世帯にわたる一つの家族それぞれの、取り返しのつかない過去と現在の絶望、そしてそれぞれがそれぞれの救済を求め、または知らずに救済されてゆく話。

びっくりした。こんな素敵な物語が紡げるならば、現代文学も捨てたものではない。

自分の興味の対象が極めて狭いため、全く気にとめずにいた作家だったが、これには驚いた。まず文章が上手い。90年代前半からか、単に拙い文章が不思議ともてはやされ(特に新本格と呼ばれる分野では)、読んでる方も恐ろしいことにその手の文章に違和感を持たないところまで来てしまっているが、やはり文章とはこうでなくては。静かで無駄が無く、とてもとても読みやすい。次に、構成が絶妙。一つ一つの物語は、全くもって希望のかけらも無い挿話もある一方で、何かしらの救済とカタルシスが必ず与えられ、その一連の物語は、ウロボロスの蛇のように循環してゆく。また、全ての物語に通底する悪意と不条理のざらついた手触りが、なにかとても現実感をもって感じられる。生きるってこういう気持ち悪いことの連続だよねーって思えて、共感も出来るし心強い。後はやっぱり、家族の姿を力強く描いていていいなあ。単純にうらやましく思ったよ。

蛇足だが、途中でさしはさまれる建築士のエピソードはほほえましい。建築士って、こういうかっこよいことを平気でしゃべる職業だって思われてるんだろうなあ。