山田正紀「ツングース特命隊」

ツングース特命隊 (ハルキ文庫)

ツングース特命隊 (ハルキ文庫)

第2次世界大戦時を舞台とした探検もの。ものすごい秘密をツンドラの果てに探りに行くと、腰が抜けるようなしょうもない種明かしが待っている話。

主人公が抗日義兵軍に銃を密売する日本人の男だったり、仲間の一人が「地図のうえ、朝鮮国にくろぐろと、墨を塗りつつ、秋風を聴く」という啄木の短歌を口ずさみつつ日本の外地での蛮行を顧みない白樺派をこきおろしたりと、前半戦はとても良い雰囲気で話は進むのだが、中盤から後半にかけて探検小説色が濃くなると物語から微妙な濃淡が消えてしまい、あんまり面白くなくなってしまう。ルーディ・ラッカーの「空洞地球」もそうだけど、地底世界探検物はどうも苦手な気がする。そういえば奥泉もあんまり面白くなかった。ここはやはりベルヌの原典にあたるべきなのだろうか。作者は久生十蘭の「地底獣国」を強く意識したと言っているが。しかし、山田正紀久生十蘭を「小説の神様」と書いているのを見ただけでも収穫でした。いいですよね、久生十蘭