山田正紀「竜の眠る浜辺」

竜の眠る浜辺 (ハルキ文庫)

竜の眠る浜辺 (ハルキ文庫)

湘南地区にあるとされる「百合ヶ浜町」が町と浜辺ごと白亜紀にのみこまれてゆく話。

相変わらず山田正紀だが、古本屋で大量発掘してしまったので当分続きます。これは、「漂流教室」を舞台を湘南の寂れた町に、登場人物を町の人々に置き換えたような話で、結論はやっぱり結構面白かった。山田正紀は後書きで、このころ人間が書けてないとの批判を受け、それでは人間を書いてやろうと思って結構うまくいったなどと書いているが、読んだ感想は人物の描写はほかの作品と大差は無い。しかし、この人の人間を観察記録のようにしか書かない手法が、むしろ人間を生き生きと描いていると思うのです。よく「人間が書けていない」などという批評家/作家がいるが、いったい人間が書けているとはいかなることなのか。人間の移ろいやすく自分でもつかみ所のない自分を描くならば、それはドストエフスキーカラマーゾフしか読んだこと無いけど)か大江健三郎にような執拗な自己言及の繰り返し、または視点を多面的に設定する水村美苗のような手法がある意味説得力がある。しかし、そんなことが出来る作家がどれほど存在するのか。ちょっと乱暴な言葉遣いで「現代(いま)をつかみとる」ような文章に、いったいどんな人間が存在しうるのか。むしろ、そのような意見は自分の世界を他者に無自覚に押しつけている態度の現れではないのか。そんな気がするのです。次は山田正紀ツングース特命隊」。久生十蘭へのオマージュと言うから、これは楽しみです。