大倉崇裕:白戸修の狼狽

白戸修の狼狽

白戸修の狼狽

なぜか中野駅周辺で奇妙なバイトに巻き込まれ、さんざんなめにあってきた白戸修くんは、めでたく出版会社に就職するも、相変わらず風変わりな先輩やよくわからない事情によって中野駅周辺でバイトをする羽目に。そして案の定、必ずおかしなトラブルに巻き込まれ、それでももちまえのお人好し加減と微妙な頭の切れ味によって、なんとか窮地を脱するシリーズ第2弾。

大倉崇裕氏の著作を読んだのは、確か「白戸修の事件簿」(初出時は「ツール・アンド・ストール」だったと思いますが)が初めてで、このマゾヒスティックとも言える主人公の事件への巻き込まれ具合と、なおかつぼんやりとした主人公がときおり見せる切れ味鋭い洞察力との対比に、とても楽しく読ませていただいた記憶がありました。本作も、それはないよね、といったスラップスティック的展開と、主人公のあくまでのんびりとしつつもどこか超人的な発想力のギャップに、とても楽しむことができました。

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S. J. ローザン:夜の試写会

夜の試写会 (リディア&ビル短編集) (創元推理文庫)

夜の試写会 (リディア&ビル短編集) (創元推理文庫)

小柄な中国系アメリカ人女性のリディア・チンと、カトリックの洗礼を受けパブティスマの教育を受けた大柄な白人ビル・スミスの二人が、ニューヨークを舞台に繰り広げる探偵物語の短編集。


「チャイナタウン」や「ピアノソナタ」など、切れ味は良く爽快なのだけれども、どこか冷め切ったような、だからこその物語の奥行きを感じさせてくれるローザンの小説は、思いおこせば大学生のころから読みあさっていたわけですから、もう10年以上も前に出会ったわけになります。そのせいか、物語の語り口にはどこか丸みが感じられるというか、初期の頃ほどの生々しさはずいぶんと柔らかくなったように思えもしますが、それでも読者を突き放すような作劇法には、相変わらずぐっと捕まれてしまうと言うか、のめり込まされてしまうものがあります。

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