小川一水:天冥の標 VI 宿怨 PART3
- 作者: 小川一水,富安健一郎
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/01/25
- メディア: 文庫
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ようやく最新刊に追いつきました。そうこうしている間に物語はとんでもない展開をとげ、遂に<救世群>は積年の恨みを晴らすべく「人類」に戦線を布告、その背後に隠されたテクノロジーは地球外生命体<穏健な者(カルミアン)>から贈られたもので、対するロイズはどうやらミスチフに乗っ取られている状況、「人類」を駒にした殲滅戦が人類以外の存在によって闘われるという、およそ予想もつかない状況に陥っています。
そんなときにダダーのノルルスカインはなにをやっているのかと思えば、ただひたすらに見つからないように隠れています。しかしそれでもなんとか事態を打開しようと、パラスの羊飼いで<酸素いらず(アンチ・オイックス)>のメララ・テルッセンのみに羊から話しかけ、彼女を通してブレイド・ヴァンディにこの混沌とした状況を説明し、しかしなにも手を打てません。
本冊にて<救世群>と「人類」、または<穏健なもの>とミスチフは壮絶なる消耗戦を繰り広げ、最終的には悲劇的な終着点を迎えるのですが、しかしやはりこの物語の醍醐味は細かなエピソードにあるのであって、間奏曲のように語られるパラスの商務長官ブレイドと、パラスを治めるために<救世群>から乗り込んだシュタンドーレが繰り広げる静かで激しい戦いと相互理解のプロセスは、その名も「天冥の標」と名付けられた章に語られるとおり、本冊の、またはこの物語の中核をなすであろう極めて印象深いものに感じられました。
このプロセスは事態の急変によって唐突な結末を迎えるのですが、その一部始終にかかわるメララの存在もまた、極めて鋭い存在感を示します。その無鉄砲さは第1巻のアクリラ・アウレーリアのようでもあり、はたまた本巻冒頭でのイサリのような大胆さも垣間見せます。加えて、本巻の終局でカタストロフに直面する彼女の姿は、第2巻の矢来華奈子を彷彿とさせもします。よく考えてみればこれはいたって自然なことかもしれず、なぜならこれらの登場人物はみな(イサリはまだよくわからないのですが)、人間的な力の及ばない大きな流れのなかでもがき苦しみ、そして敗れ去っていったとも言えるのですから。
しかし、第6巻にして暗黒時代を迎えてしまった物語の世界は、どのような連続性を持って第1巻へと接続されるのか、ドロテア・ワットや<咀嚼者(フェロシアン)>、そしてイサリはどこへ向かうのか、<穏健な者>がどうして<石工>に変容するのか、そしてノルルスカインは相変わらずなにもしないのか。どうなるのでしょうか。そして僕は次の巻が出版されるまで、物語を覚えていられるのだろうか。