井上夢人:魔法使いの弟子たち
- 作者: 井上夢人
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/04/02
- メディア: 単行本
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井上夢人氏の新作と言うだけでも購入せずにはいられなかったのですが、むしろ一番の魅力はその題名にあります。「魔法使いの弟子たち」という、ある種魔術的なタイトルに惹かれたと言っても過言ではありませんが、その期待を裏切らない物語が展開される本書には、まあ、まんまとやられてしまったという清々しい心地よさを感じさせられました。
しかし不思議な物語でした。伝染病のパンデミックという、今日的な話題を軸に展開する物語と思いきや、主人公たちは隔離されながらも超常的な力を身につけ、科学的には説明のできない不思議な世界を生きることになります。それに加え、多数の感染者を結果的に生み出すことになった落合めぐみは、まるで病原菌のように扱われながらも自分の非科学的な能力を「芸」として活かすことを選択し、主人公である中屋は時間をさかのぼったり、将来を見通す能力を身につけます。もうひとりの生き残り、90代の男性興津に至っては、どんどん若返るという信じられない現象を体現しつつも、それだけではない不穏な力を持っているらしい。これらの極めてシュールな設定が、物語の中にすとんと落ち込む力強さは、まさに井上夢人氏の構想力の豊かさを示しているように思えて成りません。
一方で、よく読んでみると様々な伏線が張られているようで、その実態は最後まで判然としないま進行します。これが作者の計算であったのか、それとも物語が勝手に走り出したのか、僕にはよくわからないのですが、おそらく後者なのではないかなあ。だって、必ずしもきれいに収束するとは限らない伏線や、確かに驚愕するけれどもどことなく構築感のない構成にもかかわらず、主人公たちの思いや行動にはなにかのびのびとした、そして充分に振り切ったと思わされる勢いの良さが感じられるからです。多分に描写が柔らかすぎる気もするのだけれど、最後の終わり方は「デビルマン」を思い起こさせ、それもまた楽しめました。