觥甲潔他:自己組織化とは何か 第2版

自己組織化とは何か 第2版―自分で自分を作り上げる驚異の現象とその応用 (ブルーバックス)

自己組織化とは何か 第2版―自分で自分を作り上げる驚異の現象とその応用 (ブルーバックス)

例えば水の分子が雪の結晶をかたちづくるように、でたらめに発生するかのようにおもえる人の細胞が個々の人間のパーツをつくりあげるように、ランダムに見えるひとつひとつのできごとが、秩序だった全体を作り上げる様相、つまり「自己組織化」について、その具体例と現在における応用事例を紹介したもの。


最近知人がこどもに恵まれました。近くに住んでいることもあって、二週間に一度くらいその子に出会う機会があるのだけれども、最初は2700グラムだった子が、いまでは7500グラムに。手足なんか、皮膚がはち切れそうなくらいにぷくぷくになっています。最初は言葉もなかったその子が、今は「マー」とか「ワー」とか、ある種の言語を獲得しつつあります。しかも、ありきたりな感想ではありますが、外形的にはあらゆるパーツが揃っているところが面白い。どういう筋立てがあって、このような出来事が進行するのか、面白いというか、不思議でなりません。そのさなかに出会った本書に、僕はすっかりのめりこんでしまいました。


本書は、ランダムに思えるミクロ的な動きが、時間の経過やある種の刺激によって、マクロなレベルにおいて何らかの秩序を形成するという、不思議な世界の事例をつまびやかに紹介し、その現在的な応用事例を紹介するものです。あくまでブルーバックス的に、複雑な方程式や難しい説明は用いず、極めて直感的、かつ論理的に説明されるその世界は、高校までで化学を断念した僕にも、とても素直にわかりやすく楽しめるものでした。


本書のすてきなところは、あまり「自己組織化」の論理的背景の説明に関しこだわらないところにあります。むしろ、どれだけ僕たちの周囲に「自己組織化」による世界が存在するか、また、それを人工的に模倣、または再現することによって、どのような可能性があるか、楽観的とも言えますが、本書は楽しく説明してくれます。ちょっとレベルは高いかも知れないけれど、これを僕が高校生の時に読んでいたら、建築ではなく化学に進んでいたかも知れないなあ、と思わせるくらい、読み手を引き込む力にあふれているところが素晴らしい。


そういう意味では、こういう本は僕が常日頃読んでいる推理小説やその他の小説と、あまりかわりが無いように思えるところも、また面白いところでした。サイモン・シン福岡伸一さんの著作にも通底するところがあると思うのだけれど、ある一つの事象の背景に存在する、必ずしも方程式や化学式で説明しきれないことどもは、むしろその事象をより力強く説明することができ、またその世界に読み手、または潜在的な研究者を引き込むことができるように思います。その意味で、ブルーバックスのこの編集方針には強く賛同し、またこころ開かれる思いを禁じ得ません。本書が格別に面白い、という可能性も、また排除できないことは否定できないのですが。


でも、やはり面白い。こんど同僚のこどもと会うのはいつになるのかわからないけれど、きっと自己組織化が進展しているのだろうなあ。組織化される前に、無秩序さを教え込みたいところですが、そんなことをすると末代までたたられそうなので、なかなか踏み越えられない気持ちもあるのですが。でも、こどもは本当に面白い。ニューロンの結合が日に日に強められている様を見ると、だんだん物事が覚えられず、世界がぼんやりと見え始めた自分との勢いの差を、感じざるを得ない楽しさにあふれています。