桜庭一樹:GOSICK 3 青い薔薇の下で

ヨーロッパの大国に囲まれた小さな王国にある寄宿制の学校に通う日本人少年久城が、なぜか頻繁に出くわすなぞめいた出来事を、これもあまりよくわからない理由で学校に軟禁状態にある小柄で天才の少女ヴィクトリアにときほぐしてもらうシリーズ第3弾。今度は久城が単身首都ソヴレムに赴き、人間消失事件に巻き込まれる。


角川文庫で出版されるようになってから読み出した本シリーズ、1巻には驚嘆し、2巻にはちょっと残念な気分を味わってしまいましたが、本巻はこころゆくまで楽しむことができました。その原因は、おそらく天才少女ヴィクトリアが風邪で外出不能であり、電話で久城からもたらされる情報のみによって謎を解き明かすという、アームチェアディテクティブの王道をゆくスタイルが採用されたからではと思います。


さて、本巻の主題はおそらく「怪談」にあります。のっけから怪談談義が展開されるのですが、これが物語が進むにつれきわめて巧みに伏線として回収されてゆく、この気持ちの良い収まりも、本書のとても素敵な特徴といえます。でもしかし、やはりこの物語の爽快感は、きわめて性格のわるいヴィクトリアと、前時代的な価値観の持ち主である久城の、すれ違うようでいてどこかしらかさなりあう、読むだにはずかしい心のからみあいにあるのです。


その意味で、ヴィクトリアがアウトドア派に転向した前作は、なにかやり過ぎ感があふれるというか、苦しいところが感じられたのですが、本作では混乱した久城の分裂的な電話のみによって、風邪で体調も気分も最悪なヴィクトリアが、それでも切れ味鋭い思考の回転を見せるという構成が、極めて本連作の魅力的な部分を引き出したように思われます。ヴィクトリアの兄であるグレヴィール警部や異常な記憶力を見せる浮浪者の少年など、物語の重要な立役者たる人物の描き方も、なにかのびのびとしたものが感じられ爽快です。あと、相変わらず本編にいくつかの断章が挟み込まれるという、前作と同じスタイルが採用されていますが、これもずいぶんと印象的に機能しているように思いました。久城がお姉さんのお買い物リストを消化しきれなかったのではとの危惧が残る展開ではありましたが、休日にゆっくりと楽しむにはとてもお勧めの一冊であります。