楠木誠一郎:消された龍馬 念写探偵 加賀美鏡介

消された龍馬 念写探偵 加賀美鏡介 (講談社ノベルス)

消された龍馬 念写探偵 加賀美鏡介 (講談社ノベルス)

神田でライカ専門店を営む加賀美には念写で物事の背景を読み取る特技があり、友人の推理作家百目鬼とともにこれまでなぜか殺人事件の解決のお手伝いを行ってきた。そんなかれのもとに、母と姉の出身高校である女子校でPTA会長が殺されるという事件がもたらされ、またもや警察の捜査を手伝う羽目になる。そんなおり、かれのカメラ屋のバイトの学生が京都土産にもちこんだ刀の鞘を念写したところ、坂本龍馬暗殺事件現場とおぼしき風景が出現、殺人事件そっちのけで、坂本龍馬暗殺の謎の解明に友人の百目鬼とともにのめりこむ。


講談社による「PTA会長が殺害された。だが探偵は何故か龍馬暗殺の真相にせまりつづける!?」というシュールな紹介文にたまらず購入、楽しめました。本書はけっこう冒険的で、坂本龍馬暗殺の謎、百目鬼の作中作、そして本題のPTA会長殺人事件という、3つのお話しが同時に進行するという荒技が展開されます。これが意外としっかり構成されていて、ひとつの作品を書けばよいのに3つも物語を書いてしまった著者の、溢れんばかりの稚気というか、ノリの良さには大変感銘をうけました。


語り口はいかにも軽く、あまりぼくの趣味とする文体ではないと感じながら読み進めたのですが、物語が進行するにつれ周到な下調べと、またなによりもいかにも楽しくてたまらないといった著者の心持ちが伝わったのか、まったく気にならなくなりました。しかも、紹介文のとおりPTA会長の殺人事件なんかそっちのけで、坂本龍馬暗殺事件の考察に探偵と百目鬼がのめり込んでゆくという、いびつな展開がまた素敵です。本題の殺人事件の方は、なぜ坂本龍馬暗殺とアナロジカルな関係が成立するのかとか、警察の民間人への依存の不自然な高さ、また終盤の展開のあまりのいきあたりばったり加減など疑問はつきないのですが、最終的にはそんな「細かいこと」はまったく気にならない、勢いのある一冊でした。