久間十義:放火(アカイヌ)

放火 (角川文庫)

放火 (角川文庫)

池袋の雑居ビルのなかにある風俗店で起こった放火事件の犯人をおっかける刑事二人と、被害者たちの素性を掘り下げようと試みる新聞記者たちのおはなし。

帯をみると、上層部の意見に反発と違和感を持つ一匹狼的刑事の話のように思えるのだけれど、読んでみるとぜんぜん違いました。主人公と思われる人物はおそらく女性の新聞記者なのですが、この人がまずなにもしない。なんだかたんたんと物語に巻き込まれてゆくだけで、勝手に物語が動き続ける。刑事の二人は、この二人のキャラクターはとても素敵なのだけれども、組織に生きるものとしての適当な職業意識をむき出しにしながら、新聞記者の女性や同僚などを利用しつつ、狡猾に事件の核心へと切り込んでゆきます。

本書は、基本的に登場人物の精神状態を忖度することなく、物語が展開します。登場人物の「人間的」側面よりは、現実がときおりかいま見せる劇的な情景を、力むことなく描き出す手法は、さすが久間氏だと思わされました。また、もう残りの頁が全然ないのに、真相が明らかにならない展開も、ある種の手に汗握る雰囲気があってとても楽しめました。相変わらず多少サービス過剰なところが気にはなるのですが、これ以上はきついなあと思わせるところで必ず切り返す作劇法は、見事と言うしかありません。なんだか山田正紀氏を思わせる雰囲気が感じられるような気もしましたが。。。