岡本綺堂、北村薫・宮部みゆき編:読んで、「半七」! 半七捕物帖傑作選1

岡本綺堂の手による「半七捕物帖」から、北村薫氏と宮部みゆき氏が選び出した短編集。半七デビューの作品とも言える「お文の魂」をはじめ、お得意先に行くたびに誰かいるのではないかと不気味な気分になる按摩の話からある陰謀が明らかになる「春の雪解」、呪いがかけられたという噂の立った一家を襲う悲劇を描いた「津の国屋」など、淡々としながらもトリッキーな短編を集めたもの。

最近なにか、古典的な名作が復刊され始めたような気がしています。創元文庫ではバラードが続々復刊され、久生十蘭の短編集もこのまえ書店で発見。そしてちくま文庫では、この岡本綺堂の短編集と、なかなか渋めのラインが手にはいるようになり、とても喜ばしいことです。

ぼくはいわゆる「時代小説」にはまったく興味がないのだけれど、岡本綺堂はとても好きな作家で、一時期読み漁った記憶があります。おそらく、まず久生十蘭の「顎十郎捕物帖」の面白さに刺激され、これ以外の捕物帖はと調べてみたところ、岡本綺堂が捕物帖の元祖であるとどこかで知り、それで読むようになったと思います。

岡本綺堂はもう70年も前に亡くなった作家で、おそらく江戸の雰囲気を体感していた世代だと思います。ところが文章はとても口語的というか、柔らかく滑らかで、とても読みやすい。その滑らかな文章に差し挟まれた数々の細かなディテールは、読んでいて自然に江戸の風景が頭の中に浮かび上がるような、不思議な読書感を与えてくれます。物語自体はけっこうトリッキーだったり無理があったりよくわからなかったりするのですが、そのあたりのまとまりの悪さは、どこか永井荷風を思わせるような切れ味と後味の良い文章に乗って吹き飛ばされてしまう。そんな曲芸的な文章が、また実におもむきがあって良いのです。

ところで、今回ちくま文庫で読んだのですが、なにか滑らかすぎるというか、妙な違和感を感じました。おかしいな、と思って青空文庫で確かめたところ、いくつかの言葉遣いが「正しい」ことばに変更されていました。底本にそもそもの問題があるのだろうけれど、このような文章の改変は、正しいこととは思えないなあ。生々しさをそのままに表現することも、とても大事なことだと思うのだけれど。