大倉崇裕:オチケン、ピンチ!!

大学入学直後に、部存続の危機にあった落語研究会に無理矢理加入させられてしまった主人公が、頭脳明晰で体術の達人の中村と、プロフェッショナルな落語技術を持つ狸男岸という、二人の先輩に翻弄されながら、いくつかの謎に相対する学園落語ミステリー第二弾。

理論社「ミステリーYA!」シリーズの最新刊なのですが、前作もとても良い作品だったので迷わず手に取りました。このシリーズの良いところは、以前にも書いたけれど装丁から活字組まで、すべてにわたってマニアックな遊び心に充たされているところで、本作でも無意味に誌面を駆け回るカラスと猫の足跡が、本文を押しやってしまっているくらいに力強い。表紙のデザインも、丸尾靖子氏の手によるもので、ぐっとこころを引きつけるものがあります。勉強になるなあ。

本編のほうは、あいかわらず物語の上手い作者ならではの、流れるようでいて強引な、予定調和を強く感じさせながらも、だからどうしたっていうんだとなっとくさせられてしまう、通りよい職人的なできばえで、大変楽しめました。ところどころ、落語の人情噺的垢抜けなさというか、語りの重さを感じさせてしまう部分はあるのだけれども、全体としてみると実はとても切れよく納まっている気がします。

「三人目の幽霊」とか、「七度狐」などの落語雑誌編集者を主人公とした作者の一連の落語ミステリーより、むしろ「無法地帯」とか「丑三つ時から夜明けまで」など、無意味に力強く精一杯破綻した作品たちの方がぼくは好きなのだけれど、本作は基本的には前者の端正な世界を持ちつつ、ところどころ後者の豪快な世界を見せてくれる、馬鹿馬鹿しい豪快さを感じさせ、とても楽しめました。

オチケン、ピンチ!! (ミステリーYA!)

オチケン、ピンチ!! (ミステリーYA!)