ドナルド. E. ウエストレイク:ホット・ロック

アフリカの二つの小国が取り合う大きなエメラルドを盗み出す仕事を請け負ったドートマンダーは、模型オタクの錠前師やスピード狂の運転手、女たらしの何でも屋たちと仕事に取りかかるのだが、なぜかいつも後一歩のところで上手くいかず、四苦八苦するはなし。

あの伊坂幸太郎氏もリスペクトした(と聞いた覚えのある)ドナルド・ウエストレイク(別名リチャード・スターク)を一度読んでみたいと思っていたのですが、いつも書店に行くと名前を思い出すことができない。今回はしっかりと記憶して角川文庫で発見しました。

うん、とても面白かったです。コメディータッチのスパイ大作戦というか、いくぶん繊細な特効野郎Aチームというか、グルーブ感あふれる予定調和の世界は、本当に気持ちが良い。物語自体も、必要最低限の伏線というか、決して期待を裏切らないが、度肝を抜かれることもけしてない、古き良き保守主義にあふれ、大変楽しめました。

でもかずかずの泥棒シーンを見ると、本書が書かれたのはおそらく 1960年代後半だと思うのだが、技術が発達していない時代のクライムノベルの楽しさというか、技術が発達してしまった時代のクライムノベルの難しさを感じてしまいました。おそらく現代であればこのような馬鹿馬鹿しい作法は通用しないだろうけど、リアルに技術的な側面を描くと、おそらくきっとファンタジー小説になってしまうだろうし。それはともあれ、翻訳も素晴らしく、とても楽しい一冊でした(書影は旧版のもの。新装版は青っぽくてもうちょっとかわいい感じ)。

ホット・ロック (角川文庫)

ホット・ロック (角川文庫)