アレステア・レナルズ:カズムシティ

元軍人の警備員ミラーは、殺されたボスの敵を取るためにカズムシティという一時栄華を誇った街へやってくる。ところがそこは、体内のナノマシンに感染する疫病によって、街自体もが驚異的な変形を遂げたディストピアと化していた。宿敵を追いかける中、ミラーは頻繁に白昼夢に襲われるようになる。その白昼夢の中で、ミラーははるか昔にこの星へ移植し、今は教団の教祖として讃えられるスカイ・オスマンと自分を同一視するという、奇妙な経験にとらわれる。そのようなたいへんな状況で、全身がシマウマ模様の女性や人狩りを趣味とする変態たち、また遺伝子改良によって二足歩行し人語を解する豚などと驚きの遭遇を果たしながら、宿敵レイビッチを追っかけるはなし。

読んだのは二度目だけれど、やっぱり面白い。レナルズの長編としては「啓示空間」に続く二作目と言えますが、物語上の連続性はほとんど無く、本作から読んでも楽しめます。

本作は、ある意味で3つの物語が同時に進行する。一つ目はミラーが親分の敵をカズムシティという悪夢のような場所で追いかける物語。二つ目は、星間連絡船で何代にもわたって宇宙を旅する人々と、その中で育ち、指導者としての頭角を現し、そして独裁者となってゆくスカイ・オスマンの物語。三つ目は、ミラーがなぜ親分を守るミッションに失敗したのかという物語。この三つの物語がカットバックされながら、まったく関係なく進むのかと思いきや、相互に関連し合う構造が明らかになる展開は、この異常とも思える厚さの小説を、ただただ、勢いよく読ませてしまう力強さを持つのです。

面白いのは、最初はミラーは殺人好きの変態で、夢の中のスカイは純真で好奇心旺盛な少年かと思うのだけれど、読み進める内にだんだんスカイの性格が崩壊して行き、現実のミラーはなんだかいい奴に思えてくるところです。大袈裟かも知れないけど、この語りの構図による世界観の大きなねじ曲げ方は、レナルズの力強さというか、物語るひととしての大きな才能を示していると思う。僕は、今まで訳されている長編の中では、やはりこの「カズムシティ」が一番好きだなあ。

あと、やっぱり本作のものすごさは、物語終盤で明らかになるそれぞれの世界のねじれとつながりにあると思う。ある意味、叙述トリックと言えそうでもあり、初読時はなに?という感じもしたのだけれど、再読すると緻密な組み立ての意味が否応なしに感じられ、もう、感嘆の一言です。

カズムシティ (ハヤカワ文庫SF)

カズムシティ (ハヤカワ文庫SF)