ナンシー・クレス:ベガーズ・イン・スペイン

「プロバビリティ」三部作の著者による、その原型となった中編含めた7編をまとめた中短編集。遺伝子改造によって眠らないで生きることが可能になったひとたちの、それ以外のひとびととの軋轢を描く「ベガーズ・イン・スペイン」、売れないSFを書き続ける青年を描く「ケイシーの帝国」、遺伝子改造によって脅威のダンス技術を持つように至ったダンサーと、その周囲を見続ける雑誌記者を描いた「ダンシング・オン・エア」など。

「プロバビリティ・ムーン」は、とても細やかに作り込まれた世界を、人間とは異なる世界観を持つ人々の視点で描いたとても重厚な物語でした。でも、なにかそこで主題となる問題が、この舞台である必要があるのかいまひとつ納得がゆかず、全体的に陰鬱な雰囲気もありそれ以後のシリーズは読みませんでした。

本作は中短編集とのことで、このような世界を描ける作家の他の雰囲気のものも読んでみたいと思い購入してみました。しかし、あまり感想は変わりませんでした。まず、全体的に救いがない物語が多いんですよね。またその悲劇性が、確かに人間の存在や人とのつながりのような、極めて思い主題にもとづいているのだと思うけど、読んでいてなぜこのような文脈でそのようなことを考えなければならないのか、よくわからない。そんなことを考えさせてしまうというのは、ぼくとしてはやっぱり物語の吸引力というか、読み手を巻き込むサービス精神が足りないのではないかなあと思ってしまう。

この「救いの無さ」や「主題の重さ」は、例えば伊藤計劃氏の「ハーモニー」にも言えることなのだけれど、でも「ハーモニー」は面白いんだよね。やっぱりここには、読ませることに対しての、筆者の狙いとぼくの好みの違いがあるのでしょう。でも、本作はとても質の高い作品だとは思います。訳文も美しいし、読者を裏切り続けるような描写の連続は、読んでいて気持ちのよいものがありました。

ベガーズ・イン・スペイン (ハヤカワ文庫SF)

ベガーズ・イン・スペイン (ハヤカワ文庫SF)