レジナルド・ヒル「異人館」



スペイン生まれで幽霊が見える歴史学者の青年とオーストリア生まれで数学研究者の女性が、それぞれの思惑を持って訪れたイギリスの片田舎で出会い、その村の400年前と40年前の出来事の真相を確かめる話。

特にこれと言って読みたいと思う本が書店に並んでいなかったためぼんやりと平積みの本を眺めていたら、「レジナルド・ヒル、注目の最新作」と書かれた帯が目についた。聞いたことのない著者だったが、訳者後書きではイギリスのアマゾンの読者評では最高点の星5つだと書いてあったため購入、結果としてネット上の採点の妥当性の無さを思い知った。雰囲気はそれなりに良いのだが、雰囲気以上の物語の内容がよく分からない。イギリスの子供達がオーストラリアに送られたという事件が下敷きになっているらしいのだが、詳しく説明されてはいない上に全く知識がないので、はたしてこの物語を充分に理解出来ているのか、自信がない。そしてこのような事を考えなければならないことが腹立たしい。また、舞台となっている村のスケールがわかないので、なんだか色々なエピソードが想像しにくい、というか理解しがたい。登場人物の描き方はあまりにも陳腐である。天才的(というかこの記憶力はある種の発達障害に特徴的だと思うのだが)な数学者であるはずの女性の台詞には全く数学の素養を感じることができず、作者の数学的知識が全くの付け焼き刃であることが物語の始めから明らかになる。そして青年の方は物語の間中延々性的妄想にさいなまれ続けている。これは彼だけにとどまらず他の登場人物にも共通して言えることであり、全編ポルノ的な雰囲気の漂う、なんとも言えない物語に仕上がっている。