アーシュラー・K・ルグィン「闇の左手」

宇宙の辺境の惑星「ゲゼン」に降り立った人類同盟の使節ゲンリー・アイは、同盟との連絡関係を樹立しようと色々な勢力に働きかけをはかるのだが、その合間に権力闘争や戦乱に巻き込まれ大変な思いをする話。

懐かしいなあ。確かに読んだ記憶はあるのだが、どのような話だったか全く思い出せないよ。でも、この古くさい訳文に過剰に瑞々しい内容は、ある意味SFという軍事文学で征服文学、つまり極めて無意識的にコロニアルでオリエンタリズムに溢れていたものから、少なくともある範囲でなにか全く別のものに転換していった時代の雰囲気を、何となく伝えているような気がするのです。この、全編にわたるぎこちなさは、ある意味「性別のない」社会を著者が描こうとしたために起こったとも言われるのではあるが、「性別のない」社会を描こうと思うだけでも物凄いよなあ。日本語では人称代名詞は基本的に「彼」が採用されているが、原文ではどうなのか気になるところである。物語としては、後世から現場の報告に基づき現状を再現するという雰囲気と、物語の登場人物による一人称の語りが交差する、これもなかなか複雑な構成を持つ。話自体はなんと言うことはない主人公と友人の逃避と冒険の物語なのだが、上記のような極めて手の込んだ仕組みが、何とも言えない複雑な味わいを作り出している。物語の終わり方もあっさりしていて、とても良い。