若竹七海「火天風神」

火天風神 (光文社文庫)

火天風神 (光文社文庫)

姉に登校拒否実行中の息子の世話を無理矢理押しつけられた弟は、行けと命じられた三浦半島の海を望むリゾートマンションに向かうのだが、折悪く史上最大級の台風が直撃し、その場に居合わせた大学生や聴覚障害の女性や釣り好きの老人やサディスティックな管理人達は恐怖と混乱のるつぼにたたき込まれる。

若竹七海氏がそのサディスティックな一面を存分に発揮したパニックホラー小説。前々から氏の登場人物扱いのひどさには一種の爽快感を感じてはいたが、今回は物語の構成までに登場人物を痛めつけると言うことを盛り込んだためか、非常にのびのびとした筆致で各登場人物が痛めつけられ、非常にのびのびとした雰囲気が楽しめる。正直言ってなんとも悪趣味で目を覆うような描写もあり、心からリラックスして楽しめるという小説でもなく、そもそもホラーやサスペンス的な小説は趣味でも無いのでそんなに劇的に感動するというわけでは無いのだが(しかも再読だし)、一方で若竹氏の文章のリズムと切れ、そして細やかな言葉遣いはなかなかこの手の小説を書く作家の文章には見られるものではなく、とても面白かったことも確かである。なんというか、極端さというか過激さが物語の大きな構成要素となる小説の場合、その言葉遣い自体が過度に大げさになり読むに耐えない、または描かれている人間の姿そのものが必要以上かつ不自然に人間的ではないものとなる場合が多く、非常に不愉快な思いをすることが多いのだが、本作ではさすが若竹氏と思わせる非常に上質で構築され、抑制された文章を読むことが出来た。しかし、やっぱりあんまり僕の趣味にはあわないなあ。この徹底のされ方はとても好きなのだが。