太田忠司「レストア オルゴール修復師・雪永鋼の事件簿」

レストア  オルゴール修復師・雪永鋼の事件簿 (カッパ・ノベルス)

レストア オルゴール修復師・雪永鋼の事件簿 (カッパ・ノベルス)

なんやかんやの色々で引きこもり状態にある青年が、ある人の薦めでオルゴールの修復技術を身に付け、独立してオルゴール修復業を営んでいるところに、曰くありげなオルゴールがいくつも持ち込まれ、そのそれぞれの曰くをかたづける話。


まあ、端正に描かれた物語で良いのではないのでしょうか。少年少女向けジュブナイルを得意とする作者なので、言葉遣いもある種の洗練が感じられ問題ない。物語自体は淡々と展開し、よくありがちな主人公や周囲の人々のどう考えても不必要と思われる心の葛藤がことさらに強調されるが、まあこの手の物語にはつきものだし、そんなに不愉快というほどのことでもない。


引きこもり状態にある青年のもとには、事件のからみで一人のやたらに心根の優しい女性があらわれ、なにかと世話を焼いてくれたり助けたりしてくれ、結果的には青年の社会的存在を後ろ盾してくれる。これもある種の王道で、なんでこんな薄気味悪い引きこもり青年に素晴らしい出会いが待っているのかと不思議な気分になるが、よく考えてみるとこのような状況から素直に解釈されるメッセージは異性がいれば大丈夫とも読み取られ、少年少女には極めて有用なメッセージだとも考えられる。物語自体はどこかで見たようなもの、特に取り立てて特筆することは無い。というか、もう良く憶えていない。あまり肩肘張ったものではなく、静かな気分で時間をつぶしたい時にはとても良い本。太田忠司氏の本領が発揮されているとも思う。