飯嶋和一「神無き月十番目の夜」

神無き月十番目の夜

神無き月十番目の夜

徳川治世の二年目、家康の検地に逆らうことになった村が皆が皆殺しになるはなし。


東北のどこかのむらの話で、元々軍役を課せられていたために、年貢米の取り立てがそれほど厳しくなかった場所が舞台。軍役が課せられているためそこには当然名字を持ち帯刀した土豪が存在し、そのうちの一人が物語の主役となり展開する。この作者の小説は、ずいぶん前に「始祖鳥記」をよんで抜群に面白かった記憶があり、今回文庫で作品が出版されたので読んでみた。しかし、これはちょっと僕の趣味ではなかった。とにかく暗くて鬱々としている。確かに、歴史物としての考証の緻密さ、正確さは極めて微に入り細をうがつもので、物語に重厚で濃密な奥行きを与えてはいる。でも、ここまで暗くて陰鬱だと、むしろ逆に本当なのかという気になってくる。


これは登場人物の設定にも言えることで、ある場面で他人の視点からさんざんに貶され貶められた人物が、その後の独白調の場面では、その人物にもいろいろ思うところや長所があり、実は一生懸命頑張っているのだみたいなことを言われても。。なにか淡々とした物語に無理矢理「人間味溢れる」強弱をつけるために、恣意的につくられた人間の弱みや暗部を読まされるのは、正直気が滅入る。ただここまで「嫌な」気分に陥るくらい、物語が力強いこともまた確か。文章は格調高く、流れもすばらしい。趣味が合わないだけなので、何とも残念。ほかの小説も読んでみたいのだが、早く文庫にならないものか。