中島らも「心が雨漏りする日には」

心が雨漏りする日には (青春文庫)

心が雨漏りする日には (青春文庫)

中島らも鬱病アルコール中毒の話。いいタイトルだ。

2002年に出版されたので、死ぬ2年前である。話は当然鬱々としているのだが、語り口が明るくて妙な雰囲気が漂う。精神病院にいったら自分よりひどそうな人がいっぱいいて元気になったとか、生まれ変わるとしたら飼い猫になりたいとか、下痢が止まらなくなってひどいときは大人用オムツをあてて外出していたとか、歩行障害がでて階段が下りられなくなって転んだが植え込みにつっこんだおかげで大事に至らなかったとか、かかりつけの精神科医が被害妄想になっておかしな事を口走り始めたとか、いちいち笑えないが明るい。とても良いことも書いてある。「うつ病寛解して思ったのは、人間の心とはなんとも簡単に病んで、なんとも簡単なことで治るのか、ということだった。怪我が治ったり、風邪が治ったりするのとはまったく違った、一種の口惜しさのようなものがそこにはあった。」「空のオルゴール」を読んだときに、中島らもは本当に壊れてしまったと思ったが、この頃の作品は口述筆記だったと書いてあり、やはりと思った。この作品はおそらく手書きだが、筆致は明るく重く、しっかりとして筆圧が感じられる、往年の中島らもを思わせる見事な文章である。