関田涙「エルの終わらない夏」

エルの終わらない夏 (講談社ノベルズ)

エルの終わらない夏 (講談社ノベルズ)

17年前の父の失踪と謎の女性の焼死を、母が死んだことをきっかけに叔父に預けられることになった主人公の女性(17歳)が解き明かそうとする試み。

関田涙氏は典型的なメフィスト賞系の作家、つまり自意識過剰のような雰囲気を漂わすちょっとかっこつけた文章を書く人に最初は思えるのだが、今まで読んだものはどれもそれだけではなく、むしろその文字的容貌を裏切るような冷たい悪意のような雰囲気が感じられて面白い。そしてこの作品にも同様の感がある。普通の推理小説と思いきやたちどころに世界設定が破綻したり、主人公が三人称で語られたかと思えば「わたし」と名乗る語り手が地の文にあらわれたりして、なんとなく井上ひさし氏の「吉里吉里人」を思わせるのだが、やはりそれなりの仕掛けがある。その仕掛けは悪い予感が的中するといった感じにあまりたいしたことがなく、物語のオチもあたた、、という感じだが、それはそれでとても楽しい。この妙な落ち着きは、やはり作者の歳のせいか。なんとなく親父くさくて安心できる。