マイク・レズニック「キリンヤガ」

キリンヤガ (ハヤカワ文庫SF)

キリンヤガ (ハヤカワ文庫SF)

近未来、絶滅に瀕するキクユ族のために小惑星上に作られたユートピアで、権力をふるう老人の栄光と没落の話。

どうもマニアックだなあ。構成は極めて巧緻で上質、文章もこなれた訳文で、原文もかなり上質なんだろうと伺える。基本的にはキクユ族の伝統を、ヨーロッパ的な思考と物質から守ろうと奮闘する老人と、それ以外の人々との対立から物語はなるのだが、物語は一つの視点に肩入れするのでなく、俯瞰的に状況を描きながら、対立する思考のわかりやすい調停と結末を拒絶する。この構成自体もまあ、ずいぶん物語を書き慣れた人という感じがしてしまうのだが、全てをねらって書いている雰囲気が感じられてしまう。老人が最後に迎えるカタストロフィを劇的にするためだけに物語が進んでいる気がして、ちょっと悪趣味な次元まで描写が進んでしまう。おかげさまで最後まで走るように読み終えはしたのだが。